at HOFU YAMAGUCHI by X100V

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我は毛利家の桔梗じゃ。
近頃、政略結婚として大名家との縁組の話が進んでおる。
我は、逢うたことも無い殿方への輿入れは、いやじゃいやじゃ、好いた殿方に嫁ぎたいのじゃ、
お玉其方はどう思う?
お付のお玉は、姫君がお忍びで行く茶屋の店主に気があると知りつつも、
姫様、大名家の姫君は大名家に嫁ぐのが世の慣わし、我儘はいけません。
奥方様も我儘を申す出ないと常々、仰っておいでです。

輿入れ先が決まったある日、お玉を伴ってお忍びで、いつもの茶屋に行き、
黒酢のような可否(珈琲)と小麦粉を焼いて卵を挟んだものを頼んだ。
一口食べると、なんと美味じゃ、美味じゃ。かようなものは今まで食べた事はない。
この器も良きかな良きかな。
ここに来れるのも最後と思い、お付のお玉に、褒美を取らす故、店主を呼んで参れ。
店主は、姫様の身に着けておいでのものを所望し、
我は、懐からお守りを取り、店主に与えた。

それから間もなく、店主は毛利家の桔梗姫が大名家に嫁がれた旨の触書をみて、
お守りを一刻の間、握りしめていた。